ようこそ、いらっしゃい。スナック茜へ。
会社の総務部(一人)を一人で切り盛りしている茜ママ。
そろそろクリスマスの季節です。
甥っ子のクリスマスプレゼントを検討している茜ママ。
オモチャのホームページを眺めながら、小学生時代の話を聞かせてくれました。
空想宝塚。
子供の頃、どんな遊びしてた?
ヒーローごっこ、アイドルごっこ。
いろいろあるわよね。
私?
家の中でお人形で遊ぶのが好きだったと思う。
女の子ってリカちゃんとかバービィちゃんとかでお姉さんごっこ遊びするの。
私もそういう風に人形で遊んでたの。
一人で。
ある年のクリスマス、私はリカちゃんハウスをもらったの。
新築一軒家。
この新しい家で新しいストーリィが始まる。
クリスマスの朝、私はそのプレゼントを見て想像を巡らせたわ。
ただね、どんなに新築でも私は友達を…友達のリカちゃんを新築に招くことができなかったの。
それは家は新しいのに新しくないものがあったから。
新しくなかったのはリカちゃん本人だった。
私のリカちゃんは近所のお姉さんのお古だった。
当時、リカちゃんを私がせがみだした頃、母親がもらってきてくれたの。
新品じゃなかった。
多分、母親は娘の人形よりも自分のジュエリィを優先したのだと思う。
そういう人なの。
そんなお古のリカちゃんをもらった時、私は心の中で『古っ…』って思ってた。
でも、言えなかった。
捨てられてしまうかもしれないって思ったから。
ただ、お人形をもらえたのは嬉しかったの。
しかも、5人くらいいたの。
女ばっかり5人。
この頃から男日照り。
家具もなかった。
シンプルな間取り。
とっても広い家に、女ばかりが5人プラス私。
あれこれ声色を使い分けて、人格を操作してた。
人格操作っていってもね、簡単なの。
一人目のリカちゃんが家にいるのね。
そこに二人目のリカちゃんが帰ってくるの。ただいまーって。
一人目のリカちゃんが聞くの。学校どうだった?って。
二人目のリカちゃんが報告するの。楽しかったよーって。
そのまま疲れたから寝るねーって二人目のリカちゃんは寝るのね。
そしたらそこに三人目のリカちゃんが帰ってくるの。ただいまーって。
一人目のリカちゃんがまた聞くの。仕事どうだった?って。
三人目のリカちゃんが報告するの。うまくいったよーって。
そのまま疲れたから寝るねーって三人目のリカちゃんは寝るのね。
そこによに…
うん、だいたいこんな感じ。
最後はね、踊ってた。
五人全員で踊ってた。
それで疲れて寝て、一人ずつまた家を出て行くの。そして帰るの。エンドレス。
ずっと、そんな遊びをしてた。
三畳の部屋で。
一人で黙々と。
ある日、小学校で事件は起こった。
同級生がリカちゃんの彼氏のお人形を買ってもらった、と。
私は新品すら持っていない。
だから当然、彼氏のお人形も手に入らない。
悔しかった。
私、悔しかった。
でもね、数なら負けてない。
平均、一人一人形だったあの頃、私には五人の女子がいた。
一人くらいなら…。
私の闇が一人のリカちゃんを襲った。
翌日、今まで五人だったリカちゃんは四人になった。
そのうち一人が男性として役割を為すこととなった。
髪を切り、男形として劇団茜に入団したの。
革命的だった。
女ばかりの新築に、男の影。
そこから仲良しだった五人のバランスが崩れていったのだろうと思う。
男の影に女が目覚めていくお人形。
まず髪型が少しずつ変わっていった。
一人目はショートにした。
ハサミを入れた。
ばっさりと。
この子はパーマにしたい…と編み込みをいれた上にドライヤー…そして髪が溶けてわ。
髪が溶けた子は、死んだことにした。
ボブカットにしたり、輪ゴムでぎゅっとしばったり、いろいろな私(小学生)なりのおしゃれをさせた。
そして、ねるとんをしていたの。
どの子がいい?
どの子と結婚する?
たった一人の男の登場で、五人の華やかな暮らしは崩壊した。
あのまま、男を知らずに毎日『ただいま』と『いってきます』を繰り返していた方が幸せだったかもしれない。
バチが当たった。
お人形を大事にできない私にバチが当たった。
今、私の前に現れてくれる男性はいない。
たぶんこれは、リカちゃんの恨みなんだと思う。
ごめんね、ごめんねリカちゃん。
かしこ。