【スナック茜】遠くの空にレインボウ。

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ようこそ、いらっしゃい。スナック茜へ。

会社の総務部(一人)を一人で切り盛りしている茜ママ。
社内にはお子さんがいらっしゃる方もいます。いるぞうさんとか。
今日はある親子に関わったお話を聞かせてくれるそうです。

遠くの空にレインボウ。

また保育士の頃の話、してもいい?

どの園でも必ずあるイベントで、運動会っていうのがあるのよね。
休日出勤。
だって、子供たちのお父さん、お母さんが我が子の頑張ってるところ、見たいじゃない。

だからいいの。
ちゃんと振替休日ももらえるしね。

私、運動会で虹になったことがあるの。

あれはいつだったかな。
年長さんのクラスを受け持ってた時ね。

親御さん参加型の競技があったの。
借り物競争ね。

親御さんと保育士で手をつないで、指定があった借り物をもって二人でゴールする。
そんな単純な競技だった。

基本的には親御さんだけのペアで競争が行われていくの。
でも、大人の勝負よ。
大人として、保育士である私たちも駆り出されるわけ。

保育士が入るのは最後の方。
メインイベントよね。花形よ。
子供たちも自分たちが走るわけじゃないのに、自分のクラスの先生や親御さんが走るから、闘争心がすごくなっちゃうの。

そこで私はゆうくんのパパと走ることになった。
ゆうくんのパパはガテン系。
運動はちゃんとできそう。
私が足を引っ張らないように気をつけないと☆…ちょっと好きになっちゃうかも☆みたいなパパ。

私はゆうくんのパパと走るのを楽しみにしていた。
手をつないで、共同作業をするの。

奥さんだって知らない、ゆうくんのパパを身近に感じられるかもって。

そんな風にはしゃいでいた。

そこへ私をさらに有頂天にさせる言葉を、ゆうくんパパは言い放ったの。

『先生…。俺、先生をお姫様抱っこしますよ!』

…ときめいた。
されたことないもの、お姫様抱っこ。

女の子なら誰しもが憧れるお姫様抱っこ。

私は他人様のものであるゆうくんパパのお姫様抱っこの権にありつけたの。

私の返答は決まっていた。
『はい!喜んで!!』
…と、心の中で思いつつ、静かに『…はい』とだけ言った。

浮かれながら、それを隠しつつ、はにかんだ私は女だった。

ゆうくんパパの前で、私は女になった。

そして競技は間もなくクライマックスへ。

私の…ううん、私たちの番。

私はゆうくんパパの首に腕をまわした。
さぁ、二人でゴールに向かいましょう。

想像通りのスタートを切った二人は、少しずつ現実という泥に足をとらわれていった。

…ゆうくんパパの足がね、もつれはじめてきたの。

ちょっと待って!って思った。
無理しないで!って思った。

何よりも『降ろして!!!』って思った。
私の体重のせいでこんな有様になっているとか、思われたくない!!

でも、ゆうくんパパのプライドが折れることはなかった。

足がもつれ、私はゆうくんパパの腕の中でバウンドし、この世の終わりを感じた。

そうね。
最期の時って、こんな風に揺れるのよね。

そして最期の時は来た。

ゆうくんパパの足が限界に達したみたい。

ゆうくんパパはつんのめった。
その途端、私は空中に放られた。

オーバーザ、レインボウ…。

一瞬だった。
私は一瞬、虹になった。

ズザァァアア!!

虹になったと思ったら、激しい音とともに地面に不時着した。

泣きたかった。
痛かったし、辛かった。
およそ700人近くいる中で、たった一人、私は地面にひれ伏している。
これはおかしい。

…泣きたかった。
でも、泣いちゃダメってすぐに思った。

きっとゆうくんパパは皆の前で…ううん、ゆうくんの前でかっこいいところを見せたかった。
なのにこの始末。
ゆうくんのためにも、ゆうくんパパのためにも、私が泣くわけにはいかなかった。

二人はゴールした。
私の半身は土まみれだった。
でも、ゴールした。

あの時、泣かないために全力で笑顔を守った。
だから今、うまく笑えなくなっちゃったのかも…なんてね。
かしこ。

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