結婚をして24年、子供も社会人になり家には昭三と悦子だけになった。二人だけの暮らしになってから、悦子には夢が出来た。それはこれまで連れ添ってきた昭三と銀婚式も兼ねて国内一泊旅行へ行く事。
行先は熱海。
二人が新婚旅行で訪れた思い出の土地である。
贅沢な旅館でなくていい。
思い出の土地をまた二人で仲良く歩けたら…
一泊旅行を思い立ってから、悦子は少しずつ貯金を始めた。
老後暮らしていくための資金とは別に悦子の趣味や衣服にかかる費用を少しずつ削って。
貯金を始めて、およそ一年が経ちようやく二人分の旅行の資金が貯まった。
これで悦子のささやかな夢が叶う。
昭三には内緒にしたまま、悦子は切符と旅館の手配を行う。
今日、振込を行えば来る連休に一年かけた夢が叶う…
しかし、楽しい夢は変貌を遂げる。
支払に行く前に、居間のテーブルに置いておいた資金が忽然と姿を消したのだった。
悦子が用を済ませた数秒の間に。
焦る悦子。
遠のく夢。
数分後、悦子が諦めかけているところに昭三が現れた。
手に大きな祭りうちわを持って。
「あんた、そのうちわはどうしたんだい?」
「明日から祭りがあってな、ちょうどそこに金があったから調達してきたんだ」
夢は変貌を遂げる。
悦子の夢は昭三のうちわに変貌を遂げたのであった…