ようこそ、いらっしゃい。スナック茜へ。
会社の総務部(一人)を一人で切り盛りしている茜ママ。
お休みの日にご自身のお父様と御岳山へ紅葉を観に行かれたそうです。
お土産にと『とうふクッキー』をくれました。
父と娘、どんな行楽になったのでしょうか。
親孝行。
すぐに母は嫌そうな顔をした。
わかってた。
ぽつりと言った時、誰を対象にしているかすぐわかった。
娘の私でしょ?
母が何か言って父のゴキゲンがななめになってしまう前に、私は自分が行くこと…いいえ、行きたい旨を父に伝えた。
父は嬉しそうだった。
思春期から今までに、父にはたくさん迷惑をかけた。
警察のお世話になった。
反抗期だってあった。
×を一つつけてしまった。
そして今は居候してる。…家賃入れてるし、アカネッティだけど。
だから、父の要望にはなるべく応えようって思ってるの。
紅葉は東京の御岳山まで見に行ったわ。
5時起きだった。
日曜から5時起きだった。
でも、いいの。
これは罰。
私が犯した数々の罪をあがなうための罰。
御岳山について、事前に確認したホームページをもとに御岳山を歩き出したの。
ケーブルカーに乗って、リフトに乗った。大人一人1300円。
ケーブルカーは普通なんだけど、リフト…それはもう色とりどりで。
いい年した私たち親子がどうしてこんなカラフルなリフトに乗ってるんだろう…って思った。
肝心の紅葉なんだけど、ばっちり緑だった。
父の紅葉の見頃情報はガセだったみたい。
でもいいの。
これは罪をあがなうための行いなのだから…。
そんな中で私が唯一やった反抗。
緑だらけの山の中でもそこここに紅葉の気配を見つけられたのね。
実は私、紅葉に全然興味がなくて…というか、世の中の草花に対して一切『きれい』とか思えない性分で…
紅葉を見かけては即座に『ねぇ、枯れてる』って父に伝えた。
それも二度、三度じゃなかった。
見つけては枯れてる、枯れてる…って父に伝えた。
父は無言でうなづくばかりだった。
きっと、紅葉はもう二度と誘ってはくれないのだと思う。
私たちが歩いたのは初心者でも安心の舗装されたハイキングロード。
最後に、まだまだ勝負をした。
まだまだ勝負?
まだまだ私、走れるわ!
おとうさんだって!
みたいな意地の張り合いから、ハイキングコースのラストを走り抜ける…という内容。
御岳山を駆け登った。
お互い息を切らせて。
(無事に下山しています。)
こんな私たち、周りの目からはどう映ったのだろう。
私は途中で、これ不倫みたいじゃね?って思ってた。
60代男性と30代女性の愛の流刑地、御岳山。
息を切らせながら、そんなことばかりを考えて、そして紅葉している葉を見つけてはまた父に『枯れてる』って伝えた。
父は息を整えながら、無言でうなづいた。
なんだかんだで父は喜んでいてくれていたのではないか、と思う。
私の罪が消えるまで、父の休日の提案にはほどよく付き合おうって思う。
おとうさん。
お願いだから、おかあさんより一日でも長く生きて。
お願い。
かしこ。