ようこそ、いらっしゃい。スナック茜へ。
会社の総務部(一人)を一人で切り盛りしている茜ママ。
社内にある観葉植物を眺めながら、『そろそろかな…』と独り言をもらす茜さん。
今日はどんなお話が聞けるでしょうか。
枯れた朝顔。
夏休みも終わりね。
お子さんの宿題、大丈夫だったかしら。
私は毎年ぎりぎりだった。よく覚えてる。
タペストリー…
うん、タペストリーに関してはまた別の機会にするわね。
夏休みの宿題の中で私を最も悩ませたのは、朝顔の観察記録だった。
夏休み前に種を植えて、終業式に持って帰ってね。
重くてね。
何度途中のドブ川に捨てようと思ったかしら。
捨てなかったけど。
とにかく暑い中、必死な思いをして持ち帰って、ベランダに置いておいたの。
観察日記っていってもね、朝顔の開花を観ようっていうのが主な課題なの。
週に一回、観察記録をつけて、あとは開花の絵を描けば大丈夫。
私は絵が好きだったから、どうってことないなって思ってた。
楽勝の課題ねって。
ただ、一つ問題があった。
私ね、植物に興味ないの。
皆がお花屋さんを目指していた時も、なぜそれになりたいのかちっともわからなかった。
季節ごとにお花を見て、『きれーい♪』とか言えなかった。
だって思わないんだもの。
だからね、絵を書くのは楽勝でもつらい思いをして持ち帰った私の朝顔に愛着なんてなかった。
重い思いをさせて…ということしか思えなかったの。
ベランダに置いておいた朝顔。
夏休みも半ばにして、だんだん開花が始まってきた。…と思う。
もうね、朝顔ってね…昼ごろにはしぼむのよ。
びっくり。
朝、頑張ったの?…朝から頑張ったの?っていうくらい、昼ごろにはしょんぼりしているのね。
どうして朝から…。
開花した朝顔を書かなければいけないのに、私がいつも見るのは何か一仕事終えてうなだれた朝顔の姿だけ。
私は私で昼まで寝てた。
だって夏休みだもの。
アバンチュールだって楽しみたい。
そのままだらだらと夏休みは過ぎていき、そして私の断りなく、朝顔は枯れた。
あんなに雄々しく育っていた…迷惑なくらい蔦をはわせていた朝顔は枯れた。
ついに私は開花した『私の朝顔』を見ることなく絵を描くはめになった。
当時、インターネットなんてないから図書館まで走った。
図鑑しかないって。
朝顔の本を見て、そして描いた。
そして私は夏の課題をクリアした。
夏休み明け、私は課題を提出した。
ちょっとだけ皆のも見せてもらった。
だいたいの女子たちの朝顔はピンクとか赤とかだった。
でも、私の朝顔だけは薄藤色、青がメインだった。
私はしまった!と思った。
皆と色が違うから。
ドキドキした。
『茜ちゃんのだけ色違うね』って言われたら!と気が気でなかった。
きっと疑われたと思う。
でも、朝顔はいろんな色のが同じ苗から咲くみたい。
…みたいっていうのは、よくわからないから。
幼い頃、朝顔を枯らした私は未だ朝顔の開花を生で見たことがない。
いつか夏の日に早起きができたら、じっくり観察してみようと思う。
…やっぱり寝ます。
朝から、頑張らないで。
かしこ。